電動歯ブラシの検証について

(検証:歯科衛生士 山川まり子 検証指導 歯科医師 猪野 潔)

以前から、当医院においでになる患者さんのなかにも電動歯ブラシについて質問される方がいらっしゃいましたが、電動歯ブラシがテレビコマーシャルに登場するようになるとその割合は非常に多くなりました。実際に購入し、使っている方も時々いらっしゃいます。

電動歯ブラシを使っている人や電動歯ブラシを使ってみたいとおっしゃる人のほとんどが、“手で磨くより、よく磨ける”と思っているようです。ほんとうに、電動歯ブラシに替えるだけで手用歯ブラシより効果的に磨けるのでしょうか。

一口に電動歯ブラシといってもいろいろな種類がありますし、電動歯ブラシの種類によって使い方も異なります。道具だけを変えても、正しい磨き方を知り、正しく使わなければ効果はありません。

電動歯ブラシを使ってみたいという方に適切な指導ができるように、「縦横磨き」・「反転磨き」・「音波磨き」各タイプの代表的な電動歯ブラシを実際に使用し、検証してみました。

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電動歯ブラシ機能別分類表

機 能 商品名 価格(市場価格)
横磨き(バス式)横磨き(振動式) プロスペック電動歯ブラシ(GC):歯科用 ハピカ(ミニマム)

製造中止

498円

反転式または横磨き反転式または縦+横磨き パワーハブラシ(ナショナル)by One(ナショナル)

3,980円

9,280円

反転式反転式反転式+上下振動(音波振動) クレスト・スピンブラシ(マックスファクター)オーラルB プラックコントロール(ブラウン)オーラルB 3D エクセル(ブラウン)

698円

2,980円

8,980円

音波式音波式(超音波:1.6MHz)音波式 ソニッケアー(フィリップス):歯科用 デントEXシステマ(ライオン):歯科用パワーハブラシ ドルツ(ナショナル)

16,800円

15,800円

9,980円

※市販されている電動歯ブラシの価格は平成14年11月の旧新津市内の電気店、医薬品店のものです。
※歯科用電動歯ブラシの価格は歯科医院での販売価格です。
※ナショナル パワーハブラシ、by Oneは反転式または縦+横磨きの際にブラシヘッドの交換が必要です。
※ハピカ、クレスト・スピンブラシは電池式です。その他は充電式です。
印は今回使用した電動歯ブラシです。
※ここにあげた商品名は一部 です。

 

替ブラシ一覧

ハピカ

400円(4本入り)

パワーハブラシ.by One共用
縦横用
反転用

240円(2本入り)

960円(1本入り)

クレスト・スピンブラシ

なし

プラックコントロール.3Dエクセル共用

1、680円(2本入り)

ソニッケアー

3,000円(1本入り)

デントEXシステマ

1,100円(2本入り)

パワーハブラシ ドルツ

720円(1本入り)

※市販されている替ブラシの価格は平成14年11月の旧新津市内の電気店、医薬品店のものです。
※歯科用電動歯ブラシの替ブラシの価格は歯科医院での販売価格です。
※パワーハブラシ、by One、プッラクコントロール、3Dエクセル、パワーハブラシ ドルツにはこの他にも替ブラシがありますが、通常の歯磨きに必要と思われるものを取り上げました。

 

GC プロスッペク電動歯ブラシPE-・

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特 徴 使用方法 利 点 欠 点
約3,000回/分バス式振動 歯ブラシの毛先を歯面に直角に軽く当てる。 使い方が簡単である。柄が細く握り易い。 ブラシの動きが単純で、手用歯ブラシで磨くより細かい部分は磨きにくい。ブラッシング中、軽く当てても歯肉に痛みを感じることがある。

■感想
ブラシ自体の動きが単純なので、難しい使い方は必要ないが、手用歯ブラシとで磨いた時と同様の効果しか得られないと思われる。作動時の振動を考慮すると毛先が当たった感触がわかりにくく、手用歯ブラシで磨いた時より磨き残しがでる可能性もある。一定の強さで磨くため、細かい部分を磨こうとすると歯肉が痛い。
大雑把には磨けるが、歯列不正があると磨き残しが多くなると思われる。

 

クレスト・スピンブラシ

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特 徴 使用方法 利 点 欠 点
ブラシ上部は反転・振動式で歯の汚れと歯垢をしっかり落とし、ブラシ下部は固定式で歯と歯茎を優しく磨く。 普通の歯磨きの要領でブラッシングする。 安価である。柄の部分のデザインがいろいろあり、歯磨きが楽しい。 ブラシの交換ができない。ハンドル部分が太く持ちにくい。ブラシヘッドが大きく磨きにくい。普通の歯磨きの要領で磨くには振動が邪魔になる。

■感想
製品の特徴であるブラシ上部と下部の使い分けが実際にはできない。通常の電動歯ブラシでは一カ所ごとに数秒間当て移動することにより、手で磨くより早く歯垢を落とすが、普通の歯磨きの要領で磨いた場合、歯垢の落ちが悪いと思われる。固定式のブラシ部分は通常の磨き方でよいが、電動の振動が邪魔になりブラシの毛先がどこに当たっているかわかりにくく磨きにくい。電動と手用の利点を生かせない。電池交換が可能だが、ブラシヘッドが交換できないため使い捨てとなる。
柄の部分がおもちゃのようなデザインをしているので子供に見せた場合、歯磨きへの興味が湧くようだ。

 

ブラウン オーラルB 3D エクセル

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特徴 使用方法 利点 欠点
中心角45゜超振動40,000回/分通常反転7,600回/分低速反転5,600回/分左右への高速反転運動に前後への超振動を加え歯間の深い部位までのブラッシングが可能。 ブラシヘッドをゆっくりと歯茎の丸みやそれぞれの歯の形にあわせて包み込むようにして、歯から歯へ移動させる。それぞれの部位において2秒位あてる。 ハンドルが細く持ちやすい。ブラシヘッドが小さいので歯に当てやすく、動かしやすい。歯面に上手くブラシを当てることが出来れば磨き残しがでにくい。 通常反転で磨いていると痛く感じる。手用歯ブラシで磨くよりより効果的に磨くには多少の技術が必要である。

■感想
ブラシヘッドが小さく、反転しながら磨くので上手く歯面に当てることが出来れば磨き残しはでにくい。作動時の振動が強いので鏡を見ながら磨かないと、どこを磨いているのかわかりにくい。上手く使いこなせれば、歯列不正があっても比較的磨きやすいと思われる。

 

フィリップス ソニッケアー

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特徴 使用方法 利点 欠点
31,000ストローク/分音波歯ブラシである。音波技術により、歯間部やブラシの届きにくい箇所もきれいにする。色素沈着除去効果がある。 ブラシを歯と歯茎の境目に軽くあてて、ゆっくりと移動させる。同じ箇所で約2秒間ブラッシングしてから次の位置へ移る。 振動はやさしい。歯がツルツルする。歯ブラシの性能上、上手に使うことが出来れば、手用歯ブラシで磨く以上の効果が得られる。 ハンドル部分が太く持ちにくい。ブラシヘッドが大きく磨きにくい。振動部のプラスティック部分が歯や歯茎に触れると不快である。

■感想
音波なので振動はやさしいが広範囲に伝わる。そのため、ブラシが適切に当たっているか判断しにくい。ブラシヘッドも大きいので歯面にあてにくい。色素沈着除去効果については短期間の使用のためか不明である。効果的に使えるようになるには歯科医師や歯科衛生士の指導が必要であると思われる。

 

まとめ

手用歯ブラシの動きを電動式にした横磨きタイプは非常に安価なものもありますが、その動きもメーカーによって様々です。あまり安いものは動きが悪く手で磨いた方がよく磨けるものもあります。以前は横磨きタイプがほとんどでしたが、手用ブラシで磨く以上の効果はあまり期待できないようです。

反転式はヘッドが小さく、奥歯の狭い隙間に入りやすいので、多少の歯列不正があっても鏡で確かめながら磨けば問題ないと思います。ただし、ヘッドが小さいので一本ずつ丁寧に磨かなければ磨き残しやすくなります。これは手用歯ブラシで磨いても同じです。上手に毛先を当てることができれば、手用歯ブラシで磨くより、早く歯垢を落とすことができます。

音波タイプは擦って汚れを落とすのではなく、音波の振動で汚れを落とすため音波が有効に当たるように使わなければなりません。反転式に比べ毛先を当てることが難しいようです。

ポイント1.電動歯ブラシをお使いになるなら

今回使用した電動歯ブラシのなかでは、ブラウンのような反転式でヘッドが小さいものが使いやすいと思われました。特にブラウン3Dエクセルは上下振動が40,000回/分で音波域となりさらに細かい部分まで歯垢を落とすことができます。手用歯ブラシでも電動歯ブラシでも、毛先が当たらなければ歯垢は落とせません。自分の口の中に歯が何本あり,どんなはえ方をしているのか、どの部分を磨けばいいのかを知らなければ効果的に磨くことはできません。電動歯ブラシでは振動があるため、どこに毛先が当たっているかわかりにくいという欠点があります。磨いた時の微妙な力加減は電動歯ブラシでは難しく、歯ぐきに痛みを感じることも多いようです。また、電動歯ブラシでも手用歯ブラシでも歯と歯の間は磨けないので、そこを磨く歯間歯ブラシやデンタルフロスが必要になります。

ポイント2.お子さんへの使用は

上記のことを考慮すると、お子さん自身の電動歯ブラシの使用は技術的に難しいように思われます。仕上げ磨き時のお子さんへの使用も刺激が強すぎるように思います。手用歯ブラシで一本一本丁寧に歯を磨く習慣を身に付けることが大切な時期ではないかと考えます。

ポイント3.手が不自由な方は

私達が電動歯ブラシをおすすめするのは、手が不自由で手用歯ブラシでは擦るという動きがうまくできない場合がほとんどです。また、電動歯ブラシは磨く時の力の加減が難しいので、介護者が使用する場合は要介護者に痛みがないように十分にコミュニケーションをとる必要があります。

当歯科医院の対応は

電動歯ブラシの使用を積極的に勧め、受付などに電動歯ブラシを置いている歯科医院もありますが、今回いろいろな電動歯ブラシを使い比べた結果、手の感覚にまさる電動歯ブラシは現在のところないように思われます。虫歯や歯周病は、磨きにくい場所に細菌のかたまりである歯垢(プラーク)が付着しておこる病気です。磨きにくい場所に歯ブラシの毛先を当てるには、そこに歯ブラシを持っていく手の感覚と、当たっているか確かめる口の中の感覚が必要です。電動歯ブラシは振動があるので、この感覚がわかりにくいのです。ですから、磨きにくい奥歯や歯の裏側などをきちんと磨こうとすると手用歯ブラシの方が磨きやすいのです。

電動歯ブラシをすでにお使いのかたには、ある程度使いこなせるように使い方の練習をさせていただきますが、うまく磨けないところはスイッチを切っていただき、毛先が当たっているかを確認して磨いていただくこともしばしばです。また、お使いの電動歯ブラシの性能に問題があれば、手用歯ブラシに変更していただくこともあります。

電動歯ブラシはその振動でどこに毛先があてっているかわかりにくいという大きな欠点があります。歯並びのくぼみやでっぱりにあわせ、力の入れかたも加減しなければいけませんが、電動歯ブラシではこれもやりにくいように思います。
これらの点が改善されれば、電動歯ブラシを患者さんにお勧めするようになるかみしれませんが、現時点では手用歯ブラシで磨くことをお勧めします。

あとがき

口腔の管理にはブラッシングは大変重要です。便利な器具ができ、たくさんの人がブラッシングに関心を持ち確実にプラークコントロールができるようになれば、こんなにすばらしいことはありません。そういった意味で今後の電動歯ブラシの発展が楽しみです。

消費者の方々は、各メーカーの宣伝文句に踊らされることなく、「電動歯ブラシとは、今現在はまだまだ発展途上の器具である。」ということを頭に入れ購入使用することが大切です。また、使用にあたっては、歯科医師および歯科衛生士からの専門的な指導を受けることが不可欠と考えます。

当医院では今後も機会があれば、新製品に対しての検証を行い、結果が得られた場合は、随時更新してこうと考えています。また、電動歯ブラシに関する疑問質問は「お電話」「お問い合わせ」などでも受け付けております。